いざ、函館

―今回の舞台は函館でした

永森

2の映画公開くらいのタイミングで、なんとなくのアウトラインは考えていたんです。そのときは給食のおばさん(いとうまい子)もいなくて、甘利田以外は全員作り直しになるね、というところからのスタートでした。函館が舞台だということだけがマスト。シナリオの第一稿では「白銀の世界」と書いてましたけど、それは撮影的に無理でした(笑)。

綾部

今までのシリーズは真夏に撮影していて、田園風景を撮っていました。送電線と田んぼのある風景のなか、大人になった市原くんに歩いてもらう。『リリイ・シュシュのすべて』のオマージュです。それが函館に来たことで、またちょっと違った画になった。今度は気持ちよく海や港を見せたりして、そこも楽しめるポイントのひとつにしたいと思いました。1、2のときも聖地巡礼のようにファンのみなさんが回っていただいていたので、今回も函館の場所がなるべく分かるように撮影しました。

―地元の子どもたちもエキストラで参加しています

綾部

地元の方の協力体制にすごく助けられました。ちょうど廃校になったばかりの中学校を使わせてもらったのですが、その中学校の卒業生や、吸収合併される在校生の子たちに出てもらいました。最後に映像として母校が残るということで、かなりたくさんの人が協力してくれました。おまけに校長先生がもともと『おいしい給食』の大ファンで、「うちの学校では、僕が面白いと言うから職員の視聴率が80%を超えてます」と言ってました(笑)。地方でエキストラを集めるのってめちゃくちゃ大変なんですけど、非常に助かりました。

北海道の給食メニュー

―函館を舞台にしたことで、給食メニューへのリサーチは

永森

もちろんご当地給食にないものを作ってはまずいので、いろいろ調べました。函館だけではなくて北海道全域で、あまり本州の給食にはないものをチョイスしたり。80年代というしばりも考えながら。全部が北海道の給食というわけにはいきませんけど、独自のものも入れていきました。

―放送を見ていて、「これはおいしそう!」と思ったメニューは

永森

おいしそうだったのはカレースープですね。ドラマに出てきた。スープカレーじゃなくて、カレースープね。あれは本当においしそうでしたね。あと今回のイカメシについては、地方の給食にはいろいろあるというのを2のときから調べていて、そのなかでも北海道の函館にはイカメシがあると。まあ、私がイカが好きなんですけど。それ以上に、駅弁が給食に出るって珍しいな、面白いなと思って取り入れようと思ったら、ここまで引っ張るメニューになるとはね(笑)。

綾部

イカメシの撮影はすごく大変でした(笑)。

永森

メイキングを見たけど、すごいよね。

綾部

それこそリアリズムとの戦いから始まったんですけどね。函館の給食で出るイカメシは小さなものが2つらしいんです。でも、僕は東京出身なんですけど、給食にイカメシが出たことがあって、1つだったんです。それで、今回も大きなものをひとつで。ただ撮影が大変で。まったく計画通りに進まなくて、日が暮れちゃいそうでした。イカメシを撮るために、カメラの最新の機能もフル活用してるんです。

永森

大の大人たちが何をやってるんだってくらい一生懸命に格闘して撮影してるよね。

綾部

大死闘したシーンです。楽しんでほしいですね(笑)。

パワーアップした市原隼人

―甘利田幸男役で主演の市原隼人さんの改めて「ここがすごい」と感じた部分を教えてください

綾部

今回、すごく苦しさがあったんです。1、2と同じ構成で、同じことをやらなければいけないんだけど、何か新しいこともやりたい。今までで一番悩みながら進めていました。市原くんも、「本当にこれでいいのか。これもやったことがあるし、あれもやったことがある。でも何かひとつ違うことを絞り出さなきゃいけないんじゃないか」と、現場でも非常に悩んでいました。今回が撮影に一番時間がかかりました。

―根底にあるのは「どうすれば観る人に楽しんでもらえるか」ということですか?

綾部

どうしたら飽きずに楽しんでもらえるか。外れすぎることをやってしまっては、『おいしい給食』でなくなってしまう。同じなんだけど、どうパワーアップしてみせるか。本当にふたりでさんざん悩んで、話して、試して。迷ったときにはやっぱりおいしく、楽しく食べて、おいしい、楽しいという表情をと。それだけは忘れずにしようと。基本に立ち返って言い続けていた気がします。楽しい現場なんですけど、みなさんが考えている以上に、今回の市原くんはものすごく苦しそうでしたし、それを乗り越えているすごさがありました。

田澤泰粋の粒来ケン

―粒来ケンを演じた田澤泰粋くんはどのように決まったのですか?

綾部

神野ゴウのとき、シナリオを作りながら「永森さん、こんな子、本当に生身の子でいるんでしょうか」と不安でした。憎たらしい嫌なやつにならず、かわいくなきゃいけない。成立させるには本人の魅力も、芝居力も必要になる。今回は200人くらいオーディションして、最終オーディションでも4~5人に会いました。そのときにドラマ版の「逆上がりが初めてできた」芝居をやってもらったんです。「いま人生変わりました!」という泰粋の芝居を見たときに、この子だと決心がつきました。

永森

正直、現場で見てもよく分からなかったんですけど、ドラマの1話目を見たときに笑顔がいいなと思いました。ケンのキャラクターを作っていくのって、すごく難しかったんです。甘利田と対決する、ゴウとは違うキャラクターを考えていたんですけど、直せば直すほど、ゴウになっていくんですよ(笑)。変に変わったキャラクターを作ろうとするより、やっぱり甘利田との関係性なんですよね。ここがつまらないとダメだし、演じる人が変われば変わって来るだろうと。案の定、いい具合のさじ加減でスイッチしたなと思います。ゴウと全然違うタイプとの対決ではなく、ちょっと天然な子くらいで、あとは本人のパーソナリティが滲み出て、いい感じのキャラクターになったと思います。

大原優乃の比留川愛

―ヒロインの比留川愛先生がとてもチャーミングで、人間的な弱さも持った、とても魅力的なキャラクターでした。あて書きではなく、シナリオが先にあって大原優乃さんへのオファーだったのでしょうか??

永森

そうです。ヒロインがまた難しいんですよ。1も2も、甘利田との出会いによって、変化していくという部分は変わらないんだけれど、どういう人がどう変わっていったら面白いか考えていくわけです。甘利田に翻弄される振れ幅を考えると、1のひとみ先生(武田玲奈)は半ツッコミのような感じで、2の早苗先生(土村芳)はもっと落ち着いたそれこそツッコミで、むしろ敵にすらなるときもあるヒロインで、そういう意味では分かりやすかった。3は、もうちょっとヒロイン本人の自立する幅が見えたほうがいいのかなと思ったので、虫も殺さないような顔をした愛先生が、実はちゃんと最後には芯が宿ってくる過程をしっかりみせていった感じです。

―キュートな大原さんが演じたことで、さらに魅力が増しました

永森

新しいなと思いましたね。そりゃ、こんな先生いたらいいですよね(笑)。

綾部

今回だと、一番大きかったのは、ドラマの9話10話で彼女のお父さん(モーリー・ロバートソン)がキーマンとして登場したことですね。甘利田に感化されて成長するという流れは、いままでの話にあったように同じなんだけど、今回は父親からの抑圧という彼女を取り巻く環境を見せた。それから市原くんとの相性もすごく良かったので、映画版ではふたりのラブロマンス部分をより強くしました。

永森

アウトラインはもともとあったんですけど、大原さんになって、市原さんとの相性がすごくいいということで、もうちょっと踏み込んだ形に手直ししました。

「ホワイトマン」本番

―映画版のストーリーとして、ドラマから引き続いて「ホワイトマン」の戯曲が登場します

永森

「ホワイトマン」というキーワードは2の映画のときから出て来てたんですけど、甘利田が書けるとするならば、身の回りにある、よく知ったやつのことしか書けないだろうと。裁判劇になったのは、甘利田はいつも小難しいことを考えているし、甘利田自身も職員室で裁判めいたことをしているし。シロというキーワードで、神野ゴウのことを甘利田なりに物語にしたらああなったと。

綾部

映画がまだ筋書きでシナリオにはなっていなかった段階で、「ホワイトマン」の戯曲はできてたんです。

―そうなんですか!?

永森

そんな大した量じゃないですよ。

綾部

でも20分くらいのボリュームのあるもので、そこから相談して、本編ではこことここのシーンをやりたいですと相談しました。子どもたちにも戯曲は渡しましたよ。ケンは全部読んでいると思います。全体の流れを把握したうえで、演じていると思います。一見くだらなく思える『ホワイトマン』の物語ですが、今回の映画の中で、さまざまな登場人物の思惑が絡んで、粒来ケンの主張が輝くように。ただの劇中劇の一幕としてだけじゃなく、映画全体を通してのひとつのポイントになるように意識しました。子どもたちには相当厳しく、あの芝居をやってもらってます。

永森

美術とかもすごくちゃんとしてたよね。

綾部

全然時間がないのにリハーサルまでして、1日それだけに費やして『ホワイトマン』のお芝居をやったんです。しかも市原くんは、子どもたちの練習と撮影でお休みの日に、心配で心配でわざわざ見に来てくれて、「頑張れ!」とか声かけてくれて。何度も何度も相当追い込みながら、一生懸命やってもらいました。それこそ最初は笑っていた観客たちがだんだん引き込まれて“本気”ということに感動していくという。ドラマ版の最後で「どんなものでも本気でやれば人の心を打つ」と甘利田が言うんですけど、それを体現するんですよね。『おいしい給食』そのものがそういう作品ですから。くだらないけど、市原くんのあの本気度になぜか感動してしまう。そこも『ホワイトマン』という劇に託したいなと、ものすごくお金と時間をかけてしっかり撮りました。

マニアなら気づく小ネタ

―最後に、シリーズを通して観てきた人だからこそ気づくだろうちょっとした遊びのシーンがあればひとつ教えてください

綾部

生徒たちが給食の配膳で並んでいるときに、1と2で甘利田があることをしてたんです。それを3のドラマ版ではやらなかったのですが、映画版でやってます。ちょっとした小ネタですけど、ファンの方なら気づいてもらえるかなと思います(笑)。

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